軍争篇のポイント解説
[3つのポイント]
・戦術の奥義は「機動」にあり |
・戦術立案時は利点だけでなく危険も考慮しろ |
・相手に先んじて遠近の計を使え |
[サマリ]
戦場において、軍をどうやって動かすかを解説しています。兵勢篇と虚実篇を総合した篇といってもよいと思います。「軍争」とは軍の争うところのことであるが、具体的に何を争うかといえば、主導権です。つまり、機先を制することであり、この篇ではその手法について詳しく述べられています。軍争は敵の先手を取ることであり、その手段として、味方が素早く動くことの他に敵を遅らせることと孫子は考えています。
読み下し文・現代語訳
読み下し文 | 現代語訳 |
孫子曰く、およそ兵を用うるの法は、将、命を君より受け、軍を合し衆を聚め、和を交えて舎まるに、軍争より難きはなし。軍争の難きは、迂をもって直となし、患をもって利となす。ゆえにその途を迂にして、これを誘うに利をもってし、人に後れて発し、人に先んじて至る。これ迂直の計を知る者なり。 | 孫子はいう。戦争の原則としては、将軍が主君の命を受けてから軍隊を統合して兵士をあつめて敵と退陣し止まるまでの間で、軍争(機先を制するための争い)ほど難しいものはない。軍争の難しいのは、廻り遠い道を近道にし、害あることを利益に転ずることである。相手より後に出発して先につく、それが遠近の計(遠い道を近道に転ずる謀)を知るものである。 |
ゆえに軍争は利たり、軍争は危たり。軍を挙げて利を争えばすなわち及ばず、軍を委てて利を争えばすなわち輜重捐てらる。このゆえに甲を巻きて趨り、曰夜処らず、道を倍して兼行し、百里にして利を争うときは、すなわち三将軍を擒にせらる。勁き者は先だち、疲るる者は後れ、その法、十にして一至る。五十里にして利を争うときは、すなわち上将軍を蹶す。その法、半ば至る。三十里にして利を争うときは、すなわち三分の二至る。このゆえに軍に輜重なければすなわち亡び、糧食なければすなわち亡び、委積なければすなわち亡ぶ。
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軍争は利益を収めるが、軍争はまた危険なものでもある。
もし全軍こぞって有利な地を得ようとしたら大部隊では行動が敏にいかないから遅れてしまい、もし小隊で行動すれば、重い荷物や兵糧がすてられ敗北する。 以上のことによって、軍争はむつかしいことが分かる。 |
ゆえに諸候の謀を知らざる者は、予め交わることあたわず。山林・険阻・沮沢の形を知らざる者は、軍を行ることあたわず。郷導を用いざる者は、地の利を得ることあたわず。
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そこで諸侯たちの腹のうちが分からないので前もって同盟することができず、山林や険しい地形が分からないので軍隊を進めることが出来ず、その地に詳しい案内役がいなければ地の利益をおさめることができない。 |
ゆえに兵は詐をもって立ち、利をもって動き、分合をもって変をなすものなり。ゆえにその疾きこと風のごとく、その徐かなること林のごとく、侵掠すること火のごとく、動かざること山のごとく、知り難きこと陰のごとく、動くこと雷震のごとし。郷を掠むるには衆を分かち、地を廓むるには利を分かち、権を懸けて動く。迂直の計を先知する者は勝つ。これ軍争の法なり。
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そこで戦争は敵の裏をかくことを中心とし、利あるところに従って行動し、分散や集中で変化の形をとっていく。だから風のように迅速に進み、林のように息をひそめて待機し、火の燃えるように侵奪し、暗闇のように分かりにくくし、山のようにどっしり落ち着き、雷鳴のように激しく動き、村里ををかすめ取って兵士を手分けし、万事についてよく見積もり図ったうえで行動する。 相手に先んじて遠近の計(遠い道を近道に転ずる謀)を知るものがつのであって、これが軍争の原則である。 |
軍政に曰く、「言うともあい聞えず、ゆえに金鼓を為る。視すともあい見えず、ゆえに旌旗を為る」と。それ金鼓・旌旗は人の耳目を一にするゆえんなり。人すでに専一なれば、すなわち勇者もひとり進むことを得ず、怯者もひとり退くことを得ず。これ衆を用うるの法なり。ゆえに夜戦に火鼓多く、昼戦に旌旗多きは、人の耳目を変うるゆえんなり。ゆえに三軍には気を奪うべく、将軍には心を奪うべし。このゆえに朝の気は鋭、昼の気は惰、暮の気は帰。ゆえに善く兵を用うる者は、その鋭気を避けてその惰帰を撃つ。これ気を治むる者なり。治をもって乱を待ち、静をもって譁を待つ。これ心を治むる者なり。近きをもって遠きを待ち、佚をもって労を待ち、飽をもって饑を待つ。これ力を治むる者なり。正々の旗を邀うることなく、堂々の陳を撃つことなし。これ変を治むるものなり。
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古い兵法書では口で言ったのでは聞こえないから太鼓やカネの鳴り物を備え、指示して見えないから旗やのぼりを備えるとある。だから昼間は旗を多く用い、夜は太鼓やカネなどのなりものをよくつかう。鳴り物や旗のたぐいは、兵士たちの耳めを統一するためのものである。兵士たちが集中統一されているから勇敢なものは進むことができず、臆病者はかってに退くことがはできない。
戦争の上手な人は相手の鋭い気力を避けて、衰えしぼんだところをうつ。 治まった状態で混乱した敵をつち、冷静な状態でざわめいた敵をうつ。またよく整備した旗ならびには攻撃をしかえけず、堂々と充実した陣立てには攻撃をかけない。それが敵の変化をまってその変化をついて打ち勝つというものである。 |
ゆえに兵を用うるの法は、高陵には向かうことなかれ、丘を背にするには逆うことなかれ、佯り北ぐるには従うことなかれ、鋭卒には攻むることなかれ、餌兵には食らうことなかれ、帰師には遏むることなかれ、囲師には必ず闕き、窮寇には追ることなかれ。これ兵を用うるの法なり。
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